会社クチコミサイトの見方1 ~価値観の違いを意識する~

会社クチコミサイトでは様々なクチコミが投稿されていますが、クチコミ情報は「所感・満足度」など価値観に左右されやすい情報と「年収・労働時間」などの事実に近い情報があります。この記事では「会社クチコミサイトの見方」として、まずは「価値観に左右されやすい情報」について解説します。 「投稿者の価値観・立場の違い」によって出る違いを意識する事でクチコミ情報に振り回されず、貴重な情報源として参考にしていきます。

クチコミは自分に当てはまるか見極めが必要

ネットのクチコミ評価が実態を示すとは限らない

まずネットのクチコミ評価は常に実態を示すわけではない事を念頭に置く必要があります。ネットのクチコミは全社員のアンケート結果のようなデータではないため、“サンプル数が少ない”“投稿する層に偏りが出る”などの場合が多く、実態を把握するにはデータ不足である可能性があります。

少ないサンプル
実態:全社員300人
クチコミ:10人 → この情報で判断できる?

偏りがあるサンプル
実態:全社員300人
クチコミ:若手50人 → この情報で判断できる?

特にクチコミを投稿する人は”転職を考えている人“や”退職者“が多くなる傾向はあるため、何らかの偏りが出る可能性があります。また”会社の平均より大分待遇が良い人”など、”平均から乖離している人”は本人特定を懸念し投稿が少なくなる可能性もあります。そのため上場企業など平均給与を公表している企業では、”公表する平均給与”より”クチコミサービスの平均給与”の方が低くなる傾向があります。

退職者割合が多いサンプル
実態:全社員200人
クチコミ:退職者50人 / 現職10人 → この情報で判断できる?

平均以下が多いサンプル
実態:全社員300人 / 平均年収600万 (300万前後~1200万まで幅広く分布)
クチコミ:以下の情報で判断できる?
250万~400万が20人 / 400万~600万が10人 / 600万~800万が2人 / 800万以上が0人 

また会社クチコミサイトはネットサービスのため、日常からネットサービスを利用する習慣のある人達が集まる会社の投稿が多くなる傾向があります。具体的にはIT系企業・ウェブ系企業、オフィスワークなどが多くなる傾向です。

業種などによるサンプル数の違い
600名のネットサービス企業の投稿数:100件
1000名の運輸系企業の投稿数:50件

コミュニティ単位で価値観は異なる

価値観は、人のコミュニティ単位(集団単位)で異なり、中には大きな価値観の違いがある事もあります。 コミュニティの価値観は社風にも表れます。また学校などと異なり※、会社の場合は能力や性格・人物像を見たうえで合いそうな人を採用し人を選別します。そのため会社単位で人の層は大幅に異なり、価値観に大きな違いが出る事があります。※学校は高校・大学では能力に違いが出る場合もありますが、年齢を除けば選別されていないコミュニティです。

また給与水準が会社によって異なり、”年収の違い・能力の違い”などによっても価値観は異なってきます。 業界、職種、年収、能力、部署、会社規模などによって価値観が異なるのが実情です。「あるコミュニティで考える普通」は「別のコミュニティでは普通ではない」という事がよく起こります。

価値観の違い

・金銭感覚が違う
・仕事の質が違う
・リテラシーが違う
・業界の価値観が違う
・人の性格が違う
・社風が違う
・組織や会社に対しての価値観が違う

価値観の違いは、例えば「ある会社での年収600万が評価2.0になるのに別の会社では年収500万が評価4.0になる」、「プロパー社員は社内の雰囲気が良いと感じても、別の会社から転職してきた人は雰囲気が良いとは感じなかった」、「ある会社では社長の決定権が非常に強くトップダウンが当然と考えるが、別の会社ではボトムアップが当然と考える」のように様々な違いがあります。

個々の人によって価値観が変わる

当たり前ではありますが、価値観は個々の人単位で大きく異なります。仮に”すべてが同じ環境条件”でも個々の人によって価値観は異なるため、クチコミ評価で違いが出ます。個々の価値観は複数人分で見た場合、少数ではランダムになる事が多く、また多数でも傾向が表れるとは限りません。

また会社の労働環境は、各従業員で”ほぼ同じ環境”だったとしても”まったく同じ環境条件”になる事はありません。仕事内容が若干違ったりする事に加え、会社のコミュニティの中では”人の性格や能力”により周辺の対応が変わり、実際には人によって環境条件は異なります。つまり”同じ給与・労働時間・同じ労働環境”だとしても「個々の能力・価値観の違い× 些細な仕事内容の違い × コミュニティ内での自分の立場の違い」などが異なり、個々の人によって所感は分かれます。

また会社では基本的に人によって役割が異なり、部署や職種、給与、労働時間、責任度合いなどが異なってきます。そのため同じ会社でも”おおよそ環境条件は同じ”ではあるものの、基本的には”人によって環境条件は異なる”と考えた方が良いでしょう。特に転職者が多い会社では給与や役割が人によって大分異なる場合が多く、人によって環境条件は大分異なります。

そのため少数のクチコミ評価で状況を予想する際は、「注意しながら参考にする」、もしくは「参考にしない方が無難」です。できれば自分の立場・価値観に近い人のクチコミを参考にできる事が理想ですが、少量の文章で人物像を正確に予想するのは限界はあります。

できる事としては、気になるクチコミの「年齢、年収、職種、勤続年数」などの基本情報を見ながら「文章、言い回し、語彙」などで投稿者の人物像を予想し、評価の妥当性やクチコミの有効性をチェックする程度です。そして自分の価値観と距離を感じた場合、ネガティブ投稿だとしても少量であれば無視して良いでしょう。

ネガティブ投稿もポジティブ投稿も鵜呑みにしない

投稿されるクチコミでは”良くない思いをした人”の”ネガティブ投稿”がやや目立つ事があります。 非常に環境の良い企業でない限り、ネガティブ投稿はある程度存在します。

“良くない思いをした人”は、「会社やコミュニティに馴染めなかった / 特定の人との人間関係悪化 / 労働環境が自分に合わない / 自分の成果や能力が周囲より低い」などが原因で悪い処遇を受けた可能性がありますが、投稿だけでは「会社側の問題か?」「個々の人の問題か?」については一切わかりません。 また”良くない思いをした人”の投稿は、極端なネガティブ表現をする事もあり得るためクチコミの鵜呑みは注意が必要です。

仮に自分の能力不足・モラル不足・リテラシー不足があったとしても「自分が劣っていました」などのような投稿はせず、「組織が悪い」「自分とは合わなかった/好きではない」「働いている人達がおかしい/レベルが低い」のような表現がなされることが多いでしょう。相当真面目な人でない限り自分の非を認めて投稿する人はいません。周辺に迷惑をかける人は自分が常に正しいと考える傾向があるのと同じです。

ネガティブ投稿の例

「サービス残業を求めるブラック企業のため退社しました」 → 本当にブラックなのか?
「宗教のような社風で私は馴染めませんでした。」 → 本当に宗教のような社風なのか?
「社内に仕事ができる人はいませんでした。」 → 本当に誰も仕事が出来ないのか?

例えば「サービス残業を求めるブラック企業のため退社しました」のように会社が悪そうな投稿があっても、「実際には残業はわずか、また投稿者が怠慢気味で仕事をあまりやってなかった」のような事もあれば、「能力が低くタスクが蓄積し周囲から穏便に指摘され、短期間だけ残業をした」のような場合もあり得ます。もちろん「非常に真面目で成果も出しながら長時間労働していた」のような可能性もあるでしょう。そのため仮に10件中のクチコミで7件のネガティブ表現があった場合でも、人の層が変わるとまったく異なるクチコミ評価になる可能性も考えられます。

一方ポジティブ投稿でも鵜呑みにするのは注意が必要です。投稿はあくまで投稿者の所感であり、「自分に当てはまるか?」については投稿だけではわかりません。例えばポジティブ投稿があったとしても「自分が配属される部署には該当しない/ポジティブ投稿は稀なケースでほとんどの人が該当しない/あくまで投稿者の所感であり価値観が自分とは異なる」のような事はあり得ます。

ポジティブ投稿の例

「昇給幅が大きく大変満足しています」 → 全員昇給幅が大きいのか?
「働きやすい環境で性格が良い人達ばかりでした」 → 投稿者が合っていただけでは?
「毎日仕事が楽しかったです」 → 特定の仕事をしていた人だけでは?
「賞与が毎年出て給与は満足しております(年収420万)」 → 自分は満足できるのか?

実名と匿名の違い ~実名でも匿名でも完全に信用しきれない~

ネットサービスのクチコミは匿名(実名を出さないアカウント名表示含む)がほとんどですが、匿名投稿は”現実”と違う点として「低評価も遠慮なく付けられる」「悪いコメントでも丁寧ではない文章で率直に投稿される」などの特徴があります。例えばクチコミの先駆者Amazonが参考になります。Amazonのクチコミでは低評価が遠慮なく付けられ、非常に良い商品ですら”わずか”には低評価が付き、平均評価は簡単には高くなりません。

そのため”ストレスのある会社の労働のクチコミ”では低評価がつきやすい状況と言えます。特に”目立って良い点がない会社※にて少し環境が悪い”と感じると低評価がつきます。※有名企業、高収入、注目されやすい仕事など

特に以下のような条件が多く当てはまると確実に低評価となるでしょう。

低評価になりやすい条件

・風通しが悪い(トップダウン、多数のルール厳守 等)
・人間関係が悪い
・年収が低い
・残業時間が長い
・仕事量が多い
・転職者が多い※
・継続的に指摘される/怒られる
※転職者が多い会社では退職者も多くなるため、投稿されやすくなります。

また同じ人の発言でも実名と匿名では大きく所感が変わる事が多く、「実名 or 匿名」「発言する場(コミュニティ)」「聞く人」の違いによって、同じ人でも所感が変わる可能性があります。特に日本人はそのような傾向が強いとされ、建前と本音が大分違った所感になります。

実名では「非常に素晴らしい方々と楽しく働かせて頂きました。皆さまに感謝いたします。」のように建前で発言する人でも、匿名では「能力が高い人達が多かったですが、社風は好きではありませんでした。」のようにまったく異なる本音が投稿される可能性があります。 「どのコミュニティで発言するのか?実名なのか?匿名なのか?」などによって本音度は変わり、匿名投稿では本音度が高まります。

発言の本音度

・コミュニティ内での実名 → 本音度が低い(建前や理想が出る)
・コミュニティ外での実名 → 本音度が低い(建前や理想が出る)
・コミュニティ内での匿名 → ある程度本音が出る
・コミュニティ外での匿名 → 本音度が高い 
・本当に信頼できる人1名との会話 → 本音度が高い

平均年収が高くても低評価になる場合がある

予想外の価値観として”給与が高い会社”の例があります。一般的に給与が高い会社は評価は高くなる傾向で評価4.0前後などの高評価が多いです。しかしながら平均年収が1000万前後以上の高待遇の会社でもわずかな会社では評価2.8など低評価の会社も存在します。

低評価の会社は「人間関係が希薄」「ルールが細かく厳しい」「目標設定が高い」などのストレスがあり、 高い給与をもらっていてもそれ以上にストレスが大きいため低評価になります。 給与ばかり注目するような人でも実際に働くと給与以外も重視する価値観に変わる人もいるでしょう。

給与が良くてもそれ以上にストレスが高い場合:
・平均年収1200万、総合評価2.8
・給与の評価:3.5
・給与以外の評価:2.0

持株会社・親会社のクチコミは参考にならない

一部の会社では、親会社と子会社が一体となって企業グループとして事業を展開している場合があります。このようなグループ経営は上場企業・非上場企業・会社規模に関わらず見られます。親会社と子会社は会社としては別になるため、環境・価値観も異なる場合が多く、クチコミ評価では大きな違いが出ます。

また会社の中には、本体の会社の従業員数が非常に少ない「持株会社」として運営されている場合があります。持株会社と聞くと自分には関係ないと思う人もいるかもしれませんが、主要な事業を本体で行い関連事業を子会社で展開する「事業持株会社」は世間に多く存在しています。 そして一社で事業展開する会社がで分社化し、グループ経営に移行することもあります。
また「純粋持株会社」と呼ばれる持株会社の機能だけが存在する企業では、企業単体では従業員が数名の場合もあります。 そのため子会社所属の場合、親会社のクチコミ評価を見てもまったく意味がなく参考になりません。親会社と子会社は会社としては別物のため給与水準・労働環境は異なります。

持株会社は「~~ホールディングス」や「~~グループ」といった社名の場合もありますが、普通の事業会社のような社名の場合もあり、社名だけでは判断できません。判断するには親会社と子会社の従業員数を確認するのが早いです。

企業グループの従業員数のチェック方法

上場企業の例:野村ホールディングス
非上場企業の例: 学研塾ホールディングス  > 「厚生年金保険・健康保険 被保険者数(社員数調査)」で調査

また持株会社が上場している場合、持株会社の年収が高待遇になる傾向があるため※、公開情報に惑わされないよう注意が必要です。子会社のクチコミが無いからといって親会社のクチコミ評価で判断するのは危険です。
※持株会社が高待遇な理由は経営企画室や財務担当者などが在籍し仕事内容によるものですが、印象アップ狙いの可能性もあり得ます。

親会社と子会社の例:
親会社: 5人、年収1200万、子会社:1000人、年収600万
親会社: 20人、年収900万、子会社:100人、年収700万
親会社: 500人、年収800万、子会社:3000人、年収500万
親会社: 500人、年収600万、子会社:400人、年収900万

嘘のクチコミ・捏造のクチコミに注意

また会社クチコミサイトの投稿は匿名で簡単に投稿できるため、嘘のクチコミ、捏造に注意する必要があります。詳しくは嘘のクチコミ・捏造のクチコミに注意をご確認下さい。

続き(後半)

続いて後半は「会社クチコミサイトの見方2 ~事実を読み取る/クチコミの分析例~」をご覧下さい。