なぜ上場しない会社があるのか?非上場を選択する理由

上場企業は資金調達や知名度アップに加え、経営者が株式によるキャピタルゲインを得られるなどのメリットがある事は周知の事実です。しかしながら世の中には上場できる状況にも関わらず、非上場を選択する企業が存在します。また小さな企業で事業が急拡大しても新規上場しない企業も存在します。なぜ上場しないのでしょうか?簡潔に説明します。

なぜ上場しないのか?(写真:Unsplash)

代表的な非上場企業

まず規模が大きく有名な企業でも非上場の企業を紹介します。

  • 竹中工務店
  • 新聞社 (読売新聞グループ本社、毎日新聞社、朝日新聞社、日本経済新聞社 等)
  • サントリーホールディングス
  • カルチュア・コンビニエンス・クラブ
  • 森ビル
  • 講談社、集英社
  • ロッテ
  • 東洋経済新報社
  • JTB

なぜ上場しないのか?

非上場が選択される主な理由を説明します。事業が成長しているにも関わらず上場しない理由です。非上場を選ぶ理由は企業によって様々ですが、下記のいずれかの理由に当てはまる場合が多いでしょう。

資金に困っていない / 株式市場から資金調達しない

資金に困っていない、株式市場から資金調達する必要性が無い、もしくは資金調達方法を多様化する必要性がない場合、非上場が選択される場合があります。株式市場から資金調達する必要がなく銀行借入れ等で十分な場合は上場のメリットが薄れるためです。株式での資金調達は返済義務がありませんが、資金は有効活用できる必要があり、代償ゼロでお金が手に入るわけではありません。そのため株式による資金調達の積極性は企業の考えによります。(関連: エクイティファイナンス vs デットファイナンス)

上場による知名度アップに魅力を感じない

上場企業は知名度も向上し、法人個人問わず企業への信用が増す事で取引が行いやすくなります。しかしながら十分に世間に名が通っている企業の場合、上場しても知名度がさほど向上しないケースがあり、上場への興味は強くない可能性があります。

「企業ブランド > 上場企業ブランド」

また上場企業と言っても「小さな会社や質が低い事業を行う会社が無理に上場するケース」もあります。つまり東証に上場する企業でも優良企業ばかりが上場しているわけではありません。そのような状況は玄人であれば認識済みであり、上場企業であっても常に強い信用が得られるわけではありません。

・素人(一般大衆、若手法人担当者):とにかく上場企業が凄い。
・玄人(財務担当者、投資家、専門家等):一概に上場企業が良いとは言えない。

株式市場から人気を得られない

株式市場から人気を得られにくい事業分野の企業では上場は不利となるため、非上場が選択される場合があり得ます。「株式市場での人気度」は必ずしも「売上・利益 / 会社規模 / 消費者からの人気度 / 商品の人気度」などと一致しません。安定した利益が出る順調な会社でも、株式市場では不人気となる可能性はあります。人気を得やすいケースとしては、「時代が注目する事業分野(IT、SDGs等)」「新しい分野に挑戦する会社」「技術や研究が関わる会社」などです。非常に不人気となった場合、経営状態が良くても上場基準※を守れなく恐れがあり、上場廃止を選択する企業も存在します。※時価総額や株式の出来高(売買数)が少ない等

また時期によっても株式市場から人気度は変わり、特にIPO(新規上場)は時期が慎重に検討されます。ユニコーン企業でも時期的に不利なため、しばらく非上場を維持するケースもあります。

経営方針を自由に決めたい / 縛られたくない

上場企業は「株主が不特定多数になる点」「重要事項は開示が必要になる点」など経営方針にある程度の制約が生まれます。経営者が議決権を大きな割合を保有する大株主の場合でも、非上場企業と比べると自由度は下がります。また経営者が大株主ではない場合、株主の意向に沿う必要があり、経営方針は経営者のみで決定することが難しくなります。(大株主の意向にまったく沿わない場合、経営者が解任されてしまう可能性もあります。)

そして上場企業は、株主に配慮する必要があり、特に売上・利益、資金調達、事業戦略に気を払う必要があります。結果的に経営方針に制約ができ、長期視点で投資する経営方針などには向かない場合があります(巨額の借金で資金調達する等)。そのような事情から経営方針の自由度を確保するために非上場が選択される場合があります。

上場維持が負担になる(労力がかかる)

上場企業では四半期決算、通期決算、決算説明会などの情報開示(ディスクロージャー)が必須です。ディスクロージャーは適切性や正確性が求められ、企業にとって負担となります。財務担当、経営企画、監査など様々な業務が発生し、それらに関わる事務業務も増加します。スタッフのみならず、経営者の労力も増加します。

上場維持に必要な労力・コスト

・社内:財務業務、公開書類の作成、内部監査、会計監査対応、ディスクロージャー関連業務、社員教育
・社外:監査法人、コンサルティング会社、法律事務所などへの支払い

ただし資金・リソースが潤沢な会社では上場維持コストの確保は難しい事ではないため、組織や従業員としては大きな負担とはならないでしょう。(例: 経営企画室が不足している場合、経験者を増員して解決できる。)

世間から評価される / 経営者が適切な対応をとる必要がある

上場企業では、法令を遵守し世間から批判されないような行動を取る必要がありますが、特に代表者の発言・行動には大きな注目が集まります。中でも株主総会・決算説明会は非常に注目度が高く、世間(不特定多数の投資家)から経営者が評価される機会でもあります。単なる説明の場ではなく評価され鋭い質問がなされたり、問題を呈される可能性がある場です。わずか一言で会社の大きなイメージダウンを招く恐れもあります。普段は社員や取引先から持ち上げられる社長でも、投資家は冷静で客観的視点であり評価は厳しめです。そのため「自分の世界で生きたい・プライドが異常に高い」などの社長は上場企業の経営者には向かないでしょう。

大株主が上場させたくない

大株主が企業を上場させたくない場合、非上場が選択されます。上場させたくない理由としては主に下記です。

  • 大株主で経営者・経営方針を完全にコントロールしたい。(例: 経営陣は親族で引き継いでいきたい)
  • 大株主が資産家であり、株式の売却益が巨額でも大きな魅力がない。(既に配当で巨額を得ている等)
  • 会社を公(おおやけ)にしたくない。(株主として目立ちたくない)
  • 大株主が法人の場合、法人の戦略として上場させたくない。

野心的な企業ではない

上場企業は常に将来を期待され、成長戦略が求められ続けます。株主は株価の上昇を強く願っており、成長願望が途絶える事はありません。そのため、上場企業は成長を意識する企業体質である必要があります。
そのような企業体質では経営者・従業員には高めの目標が課される場合が多いです。また新規上場(IPO)は、「事業の拡大(売上・利益の達成)」、「適切な組織構築(適切な業務)」を中心に多くの難関があり、経営者・従業員ともに確実に業務負荷は増加します。そのため”野心的な企業ではない一般的な企業”は、業務負荷の面からIPOは目指しません。特に過去からの慣例に沿い、経営者や従業員を養う事を主目的として経営している会社は、企業体質として上場には不向きでしょう。

報酬面で経営者が十分に満足している

上場企業の経営者は株式のキャピタルゲイン(売却益)により、大きな報酬を得られる可能性があります。その額は労働報酬(役員報酬)と比較すると非常に大きく、大きな魅力の一つです。キャピタルゲインで得られる額は、数千万、数億に留まらず、10億単位、もしくはそれ以上になるケースもあります。

ただし、そもそも経営者は年収が高く、無理してさらに上を狙う人は一部であり、現状に満足している可能性があります。巨額の売却益を狙うのは「非常に貪欲な経営者」、「勢いのある若い経営者」などわずか一部でしょう。

報酬の選択

安定して楽な3000万の収入 VS ハイリスクで不確実でストレスが多い3億の収入(株式売却益)
> 一般的な感覚では、前者を選択する可能性が高い。

親子上場の回避(親会社が上場している)

該当企業の「親会社」が上場しているため、「親子上場」にならないように子会社(該当企業)は非上場が選択される場合があります。親子上場は、「電通グループ、CARTA HOLDINGS」「三菱商事、ローソン」「GMOインターネット、GMO系子会社」のように親会社と子会社で上場しているケースです。

「親子上場」は、投資家から「わかりにくい」「上場する意味があるのか?」のように意義を呈される事があり、必ずしも良い事ではありません。そのため「親子上場」を懸念し、子会社を上場廃止にする場合もあります。(親子上場の解消事例: 「NTT、ドコモ」)

まとめ

上記のような様々な理由から、規模が大きな会社でも非上場が選択される場合があります。また経営方針の決定方法は会社により異なります。

経営方針の決定方法
  • 代表者1名で決める
  • 複数名の経営陣で決める
  • 親会社が決める
  • 株主が決める
  • 株主と経営者の協議で決める

経営者単独で決められる場合もあれば、組織や外部関係者が影響する場合もあり、その理由も多種多様です。「上場に興味がなく、非上場のままで良いと考える会社」もあれば、「上場したくても非上場を選択せざるを得ない会社」もあるでしょう。