ITエンジニアの採用に悩む企業が多い中、狙いのITエンジニアを雇えない主な原因を説明します。
この記事の対象者
・学生 (高校生、大学生)
・ITエンジニアに興味がある非エンジニアの方
・転職を考えているエンジニアの方
・企業の採用担当者
目次
ITエンジニアは一般的な職種より対象者が少ない
世間で「一般的な職種」として、例えば「一般事務職」「サービス業従事職(販売員、運営等)」「工場作業職」「リテール営業」などがあります。どのような職業でも奥が深く職業別の専門性が存在しますが、一般的な職種は入社時の敷居は高くない事が多く、また比較的幅広い人が習得できます。一方、ITエンジニアのように技術系職種の場合、「技術系の業務経験」や「技術系の能力」が求められるため敷居が上がり、対象者が少なくなります。そのため、ITエンジニアは一般的な職種と比べると対象者は多くはありません。そして企業からニーズがあり、ニーズに対して対象者が少ない状況となっています。ITエンジニアに限らず、資格が必要な職種や難しいスキルを求める「入社時の敷居が上がる職業」では対象者が少なくなります。
前職の仕事(または必要な基礎能力) | 対象者の数 | |
---|---|---|
一般的な職種 | 一般的な職種 or 社会常識がある人 | 多い |
ITエンジニア | ITエンジニア or 技術系の能力 | 少ない |
ただし「ITエンジニア」でも企業によっては専門性が求められない場合があり、そのような場合は対象者は多い状況となります。
理数系能力が求められる場合がある
ITエンジニアの仕事の中では、理数系能力が必要になるケースがあります。ITエンジニアに理数系能力が常に必要というわけではありませんが、職業上有利となるケースが多いです。重要指標の一つである事は間違いありません。一部の職種では高い理数系能力が必要となる場合もあります。
ITエンジニアで有利となる能力・素質
- 理数系能力
- 論理的思考力
- 工学系知識を覚えて使える能力・工学系センス
- 電子機器・システムなどへの強い興味
- モノ作りや研究などに対する粘り強さ・タフさ
- エンジニアとしてのビジネススキル・コミュニケーション能力
- その他 常識的な能力、文系的優秀さ
理数系能力が高い人は、当然世間では多くはなく対象者は減ります(例: 理数系科目の平均偏差値70以上の人はわずか)。また理数系能力が高い人は様々な職業でニーズがあり、エンジニア以外でも強いニーズがあります。そしてITエンジニア以外でも大きく活躍できる場があり、ITエンジニアになる人は一部です。つまり「理数系能力が高い人」かつ「ITエンジニア」となると、対象者は非常に少なくなります。ちなみに「理数系能力が高い人」は当然文系の学部でも存在し、単純に大学や学部だけでは判断できません。
理数系能力が高い人が選択する職業
- IT以外のエンジニア
- ITエンジニア
- 大企業の総合職
- 官公庁、公務員、教師
- 研究職
- 医師、薬剤師、MR
- 様々な専門職(弁護士、会計士、建築士など)
- その他一般的な職業
企業が求めるエンジニアリング分野が狭い
ITエンジニアのエンジニアリング分野は多数種類が存在しますが、企業が求める分野はその中の一部であり、狭くなっています。また役割や担当工程にも希望がある場合が多く、対象者は限られます。仮に同じ役割の職種でも取り扱う技術のジャンルが異なる場合、選考で懸念が出る可能性がありますし、ITエンジニアかつ優秀な人でも企業が求める経験が無い場合、基本的には採用にいたりません。
例:職種例
ネットワーク、開発、PM、コンサルタント、保守、テクニカルサポート、QA、テスト・・・
例:ジャンル例
Java、php、Ruby、Go、VB、Python、Scala・・・
例:役割・工程例
上流工程、下流工程、SE、PG、包括的な役割
必須条件の例
Java言語 経験 5年以上、金融システム経験者、30人月規模以上の要件定義
> Java経験者は多いが5年経験と金融システムという点で対象者はやや減る。また30人月で会社規模、要件定義で役割が絞られるため、対象者は限られる。
SREポジション経験 2年以上、Docker/Kubernetes システム構成設計、GCP経験、TOEIC700点以上
> SREの役割が存在する企業に限定され、英語が必要となる点で対象者はさらに減る。
企業側に魅力がない
魅力がない企業に売り手市場の人材は集まりません。特に「企業が採用したいITエンジニア」は要望が多く、採用に苦戦する企業は多いでしょう。特にITエンジニアが魅力を感じにくい事業・社風の会社、小規模な会社は不利になります。また「非エンジニアの人」が魅力に感じる企業でも、エンジニアが魅力に感じるとは限りません。
ITエンジニアのありがちなチェックポイント
経営者 | 経営者がITやエンジニアを理解しているか? |
---|---|
事業の種類 | ITを駆使している事業か? |
企業の成長性 | 伸びているか?下降してないか?無理な成長をしてないか? |
仕事内容 | ITエンジニアの職種やスキルに沿った仕事内容か? |
働く人 | ITエンジニアを理解してくれる理解者は存在するか? |
社風 | 無理な押し付けをする会社ではないか?リテラシー・モラルが低い人達が多くないか? |
会社規模 | ITエンジニアが安心できる会社規模か? |
評価制度 | ITエンジニア向けの評価制度は存在するか?昇給の見込みはあるか?もしくは安心できる査定方法か? |
給与 | 安心できる給与・給与体系か?(安心できる点は重要) |
その他 | 会社の仕組みは問題ないか?(財務機能や経営企画機能などが適切か?) |
特に「仕事内容」「働く人」「給与」などが重要であり、企業は適切な環境を用意する必要があります。「仕事内容」としてはITエンジニアが好む仕事、またはスキルアップが可能な仕事、「働く人」はITエンジニアやエンジニアリングを理解できる人、「給与」は相場、または相場以上などの環境です。メリットが不足する場合、別の要素(給与など)で補填する必要性が出るでしょう。
企業が積極的に採用活動を行っていない
企業が積極的に採用活動を行っていない場合やITエンジニアに適した採用を行っていない場合、エントリー数が少なくなりエンジニアを採用できない可能性があります。ごく自然な採用方法(一般的な求人サービス掲載など)は買い手市場の職種では有効ですが、売り手市場の職種では通用しません。高い魅力がある会社でない限り、人は自然には集まらないため、何らかの積極的な採用活動が必要です。
積極的な採用活動の例
- ITに強い人材紹介会社の活用、複数の人材紹介会社の活用
- 採用イベントの開催
- 積極的なスカウトサービス利用
- 会社説明会・カジュアル面談
- 社内関係者の紹介制度の活性化(リファーラル採用制度)
- 企業独自の採用企画の実施
ITエンジニアはわりに合わない一面があり、対象者を減少させている可能性がある
ITエンジニアは世間の職業と比較し、やや給与が高めな職業となります。しかしながら仕事が大変な場合もあり、わりに合わない一面があります。やや高めな給与だったとしても、ストレスや勉強時間が必要などのデメリットがあるということです。ITエンジニアは人気な職業の一つになってきていますが、デメリットは人気を抑制する可能性があり、対象者を減少させている可能性があります。
「デメリットがどの程度対象者を減少させているか?」については測りようがなく不明ですが、下記のような回避行動はあり得るでしょう。能力が高い人は選択肢が多く、デメリットを感じた場合、他の職業に流れてしまいます。現在でもITエンジニアは海外のような人気度はありません。(関連: なぜ海外のIT企業の給与は高いのか?)
ITエンジニア職からの回避行動
- 優秀な人がエンジニアを回避し、別の職業を選択する
- 学生がエンジニアの将来性・安定性を疑問視し、大企業の総合職の道を選ぶ
- 能力が低い人がエンジニアの仕事がわりに合わず、別の職業を選択する
ITエンジニアの仕事は大変な場合がある
ITエンジニアの仕事は大変な場合があります。「大変さ」は企業によって異なり、人によっても感じ方が大きく異なってきますが、主に下記のような点です。(参考: ITエンジニアのストレス)
技術系知識が求められる
エンジニアには技術系知識が求められます。企業が必要とする技術知識が求められるため、技術に触れていたい程度では担えません。知識習得は試験勉強のような特性があり、簡単ではありません。技術が好きなだけでは乗り切れないシーンがあります。
成果や期限が求められる
エンジニアにはエンジニアリングの成果が求められます。成果を上げるには知識やスキルが必要となる場合が多く、基本的に知識アップ・スキルアップが必要となります。エンジニアの業務は大抵タスク期限が存在し、該当企業での平均的な生産性が求められます。
業務量が多い / 労働時間が長め
企業によっては業務量が多い場合があります。仮に技術が好きな人でも業務量が多い環境を好む人は少ないでしょう。また労働時間が長めな会社も存在します。働き方改革により異常な長時間労働は減少しましたが、まだ残業が長めな企業は存在します。
会社内の地位が低い
企業によってはエンジニアの会社内の地位が低く、様々な業務を押し付けられているような状態がありえます。コミュニケーションとしても格下のような状態となっている会社も存在するでしょう。
ITエンジニアは給与がそれほど高くはない
ITエンジニアは世間の職業と比較し、やや給与が高めの職業となりますが、非常に幅広く分布しており高い人もいれば安い人もいる状態です(300万の人もいれば1000万の人もいる)。ITエンジニアは基本的に会社員であり、勤務する会社の給与水準に強く影響されるため安い事も珍しくありません。
わずか一部の人で「重い責任を担い高待遇のケース」もありますが、大半は「安定してやや高めな報酬で働ける」「興味がある仕事で働ける」「能力が低めなわりに良い企業で働ける」「給与は高くないが楽な仕事で働ける」のようなケースがほとんどです。そして「仕事の大変さと給与」のバランスを考えると「わりが良い職業」とは言えません。楽で楽しく仕事をしていると考えるエンジニアでも、趣味としてプライベートの時間を割かれている場合や過去に多くの学習時間をかけている場合があります。
またエンジニアの人の層としても「高額報酬をガツガツ狙うタイプ」は少なめです。他職種より「真面目、控え目な人物、モラルを意識する人物、安定志向」などが多い傾向で企業側も人の層に沿った制度を整えるため、一般的な会社ではエンジニアへの高額報酬設定は検討されにくいです。
やや良い企業でも採用に苦戦する可能性がある
売り手市場人材から見た場合、「日本の平均よりやや良さそうな企業」でも魅力を感じない可能性があります。採用に苦戦するケースは珍しくないでしょう。
日本の平均よりやや良さそうな企業
- 従業員数1500名 不動産業 本部が有名ビルに入居 平均年収650万
- 従業員数1000名 卸売業 上場 知名度ある程度あり 平均年収580万
- 従業員数200名 Eコマースサイト運営 非常にホワイトな労働環境 平均年収500万
- 従業員数50名 ITサービスベンチャー 平均年収540万
また「技術力の高いITエンジニア、問題解決力の高いITエンジニア」などの優秀なITエンジニアは、圧倒的に人材の数が少ない中、企業からのニーズが非常に強いため、採用は困難となります。
優秀なITエンジニアが在籍する会社
- IT系企業の中で特別技術に力を入れている会社(技術中心の会社等)
- 知名度が高く給与水準も高いIT系企業
- 高い技術力を持つ大企業 ※研究所を保有する電子機器メーカー・通信事業者 等
- その他エンジニア個々の要望と合致する企業
ありがちな苦戦パターン
ありがちな苦戦パターンです。
システム受託などのIT系事業の零細企業 10名以下
IT系事業の会社でも会社規模が非常に小さい場合、企業によほどの魅力がない限り、大きな苦戦が予想されます。過去の人脈頼りなど特別なフォローが必要となり、結局は妥協案で採用する場合が多いでしょう。
非IT事業の一般的な中小企業 300名
人数がある程度在籍する企業でも非IT事業の企業は、IT系企業と様々な点が異なり苦戦が予想されます。良いITエンジニアの採用は難しく、懸念があるエンジニアの採用の繰り返しや方針転換(外注等)が検討されるでしょう。
IT系サービスを運営し技術系ではないベンチャー企業 200名
自社サービスを運用するIT系企業は知名度が高くなる傾向があり、また労働環境の企業努力がなされている場合も多く、やや魅力に感じる可能性はあります。しかしながら、やや魅力がある企業でも実績があり技術力の高いエンジニアを狙う場合は苦戦する場合が多いでしょう。
給与がやや低めで独特な中堅システム企業 500名
システム企業には多数のITエンジニアが在籍します。しかしながらシステム企業では独特な風土や年功序列型の風土となったり、また事業や仕事のレベル感が低い企業も存在します。そのため良いITエンジニアは転職先に選ばず、狙いのエンジニアは採用できません。結果的に経験や能力が不十分なエンジニアを採用し、企業風土に染めていくパターンが多いでしょう。
ITエンジニアの採用に苦戦し最終的には?
ITエンジニアの採用に苦戦し、企業側の問題を把握できたとしても企業戦略・事業内容・評価制度・社風などは簡単には変更できません。そのため最終的に下記のような選択がなされる場合が多いでしょう。
- 何らかの懸念があるITエンジニアで妥協する
- アウトソーシングの方針に変更する
- 採用条件を変更するなど、採用方針を変更する
- 放置・判断保留 (目を背ける)